ヴィクトリアマイル・回顧録
思ったよりも早く雨が落ちてきた東京競馬場。発走時刻には芝の穂先まで雨滴が絡み付くほどになっていた。競馬は同じ距離を走る。斤量と言われる背負う重さは馬のこれまでの結果によって異なる別定戦またはハンデ戦と、同じ重さを背負って走る定量戦に大別される。つまり、走りやすい状態になったときにどこまで力を発揮できるかを競うのである。そのため、最後の直線で力を発揮して、どこまで速く走ることができるかというものだ。
最後の直線は中央四場、それぞれ距離が違う。きょうのヴィクトリアマイルは東京コース。約526mある。それも脚の力を削ぐ長く緩やかな坂があり、ゴール板手前250mからフラットになる。東京コースはここからが本当の勝負となる。鞭を入れられたリスグラシューが外目から伸びてくる。確実に先頭と差を詰めて、一完歩(一本目の脚が地面を離れた地点から四本目の脚が着地した地点までの距離)ずつ差が詰まっていく。映し出される画面を見ていても判るほど。
が、その中で一頭だけ差が詰まりにくい馬がいた。一番時計を出しながらも阪神牝馬Sで2着となったジュールポレール。その馬とハナ差で2着となったリスグラシュー。このヴィクトリアマイルで一番時計。
競馬にはタラレバが付き物だ。もし、雨でなかったら、もっとスムーズに前々の競馬ができていれば。
武豊騎手。日本競馬界の天才の一人。馬に負担を掛けない騎乗は弛まぬ努力がなせる技。それを以てしても僅かハナ差(約20センチ)で届かなかった。あと二完歩あれば抜けた。が、どの馬も同じ距離を走る。だから、展開が大切なのである。
負けたことを知った。ゴール板を過ぎて第1コーナーから第2コーナーに差し掛かる手前。リスグラシューを止めてゴール板を振り返った。思った以上に早く落ちてきた雨に、天才は天を仰いでから後検量に向かった。
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